講義を受ける前に


ここではレポートの書き方など、授業でわざわざ講義することはない(要望があれば講義しますが)けれど、最低限わきまえてほしい「学ぶものの常識的な知識」について簡単に触れておきます。

1.基本知識

(1)法学を学ぶ上で、基本的な用語についての知識は重要である。

講義の中ではなるべく用語の意味を日常用語におき直して説明するようにしているが、それでもレジュメで定義を紹介したり、板書で用語の意味を紹介したりした場合、最低限それだけは理解し、記憶した上で講義で示される「問題の所在」に対する解答を考えてほしい。

※例:「通説」と「多数説」、「判例」と「判決」と「決定」

通説・・・有力説。影響力の大きい論者が述べている説。多数説は、文字通りには「多くの学者が採用している説」であるが、有力説ないし通説の意味合いで用いられることもおおい。したがって、これらの言葉は、その説が「影響力が大きい」ということ以上の意味を持っていることはあまりない。

判決・・・裁判所の下した、申し立てに対する決定。裁判所の「決定」は、訴訟法上独特の意味を持つが、法律用語として「決定」という場合には、行政処分をさす場合が多い。

※判例とはなにか・・・厳密に言うと、なかなか面倒。

@「厳密には、判決の結論を導く上で意味のある法的理由付け、すなわち『判決理由』(レイシオ・デシデンダイratio decidendi)のことを言う。判決文中これと関係のない部分は『傍論』(オビタ・デクタムobiter dictum)と呼ばれる。(中略)『判決理由』の部分(判例)は、後に起こる別の事件で同じ法律問題が争点となったとき、その裁判の拠りどころとなりうる先例として扱われる。その意味で判例は『法源』(…)として機能する」。この先例の効力については事実上の効力であるとか、法上の効力であるなどの説があり、またそうではなくて拘束力に「強い」あるいは「弱い」という違いがあるという異説もある。「しかし、判例の拘束力をどのように解するにせよ、十分の理由がある場合には、判例の変更は可能と解されている。そのような理由として、@時の経過により事情が大きく変更した場合、A経験の教えに照らして調整が必要になった場合、B先例に誤りがある場合(先例を変更する新しい判決の論理の方が先例よりもすぐれている場合のほか、変更される判例がそれ以後の同種の問題または関連する事項についての判決と矛盾するという場合)などが考えられる。判例を変更するには、大法廷によらなければならない(裁判所法10条参照)」(芦部信喜・高橋和之補訂『憲法第三版』岩波書店、2002年、361頁)。

A「『判例』という言葉は判決例の意味に使用されることもあるが、法源とされる『判例』とは、たんなる判決例の意味ではなく、判決の基礎とされた一般法理のことである。すなわち、具体的事件に対する判決は、当該事件に対する裁判所の判断で、原則として当該事件に対してのみしか拘束力を有しない。けれども、判決は、まず当該事件に適用さるべき法を指示し、その適用の結果という形で事案への判断を示す。この中間段階において示される法は、法が通常有すべき一般的妥当性をそなえるものとして述べられ、その故に具体的事件に限られぬ法の宣言と考えられる。これが、法源としての判例である。

判例が法源とされることを直接に指示する制定法はない。けれども、

(一)憲法は国民に対して『法』の平等な適用を保障していること、
(二)憲法は法的紛争の最終的解決が裁判所によってなされることを原則とし、裁判所は、いずれの国民にも法の平等な適用をなすべきこと、
(三)他の国家機関は、ことさら判例と異なる法解釈をとって、国民は訴訟による以外に判例法理の適用をうけえないといった態度をすべきでないこと

といった根拠から、国法の法源であると考えなければならない」(小嶋和司『憲法概説』良書普及会、1987年、89〜90頁)。

※包括的に参考となる文献:法学セミナー590号(2004年2月号)特集[最新型]の判例学習!

(2)「これだけよめば十分」という教科書はあるか?

法学を学ぶ上で、誰か一人の著者による概説書だけを読んでこと足れり、ということは少ない。けれども、最低限理解しておかなければならない知識というものはある。

たとえば憲法学であれば、

芦部信喜・高橋和之補訂『憲法第三版』(岩波書店、2002年)

これが、ひとつの指標となる。いわゆる「通説」を形成している。講義でこれを「教科書」に指定しようかとも思ったが、基本的に半期で展開する講義には内容が豊富すぎ、未消化のまま終わってしまうと考えられたので、教科書とはしなかった。

※なお、憲法を学ぶにあたって、以下の雑誌増刊、特集号は一例だが、より深い学習のための足がかりとなる。

  1. 芦部信喜・高橋和之・長谷部泰男編『憲法判例百選I[第四版]』『憲法判例百選II[第四版]』
  2. 法学教室1996年6月号(189号)特集リーガルマインド憲法
  3. 高橋和之・大石眞編『ジュリスト増刊憲法の争点[第3版]』(有斐閣、1999年)
  4. ジュリスト1192号(2001年1月1・15合併号)特集世紀の転換点に憲法を考える
  5. ジュリスト1222号(2002年5月1−15号)特集日本国憲法と新世紀の航路
  6. 法律時報増刊・全国憲法研究会編『憲法と有事法制』(日本評論社、2002年12月30日発行)
  7. ジュリスト1260号(2004年1・1−15合併号)特集

(3)古典はよむべきか?

憲法学に関していえば、ロック、ルソー、モンテスキュー、ホッブズ、ミルなどの古典を岩波文庫などの翻訳でよいので読んでおくことは、理解を深める。どれかひとつでよいので、一読することを強く勧める。ただし翻訳とはいえかなり含蓄ある内容であるので、哲学辞典、社会学辞典、法律学辞典などを傍らに置き(図書館に入っている)読み進めないと、ほとんど理解できないであろうことはあらかじめ覚悟して読み進めるべきものである。

2.勉強のための基礎知識―一般論

(1)調査と発表(図書館の活用)

@教科書・体系書の読み方

○目次を活用する(コピーないしワープロソフトなどをつかって一覧できるようにする)

○最低三回読む(とにかく網羅的に → 精読 → 不明点の調査をして書き込む)

○条文がでてきたら、最初は条文をメモにとっておいて、条文をまとめて読む。

条文だけを読んで内容が思い出せたら、先に進む。

※常に最新版の六法書を手元においておくこと。

A講義の聴き方・ノートのとり方

○理想は、口頭で説明されている内容を、なるべく文章の形で、要点を整理しながら書く。

○慣れるまでは、とりあえず網羅的にノートをとる → 教科書などを読みながら別のノート(ワープロソフトをつかってもよい)に整理する、という形でも良い

Bゼミ報告などの場合

○テーマが決まっている場合

α 関連文献を図書館のOPACなどを使って検索し、リスト化する。

β まず最新文献を最低三つ、立場の違いに留意しながら精読し、文献ごとにレジュメをつくる。

γ 文献に出てきた判例を、まずは判例百選などをつかって調べ、重要であると考えられるものについては、最高裁判所民事判例集や刑事判例集などに直接あたって精読する。

δ 自分がどのような視点でまとめるか、簡単なレジュメを作成する。

ε グループで報告する場合は、各自がレジュメを作ってつき合わせ、わかりにくい点などがないかどうか、互いにチェックする。

○テーマを自分で探す場合

α 授業で聞いた内容や、教科書、また自らの日常生活の中で生じた疑問などをもとに、テーマを決める。テーマの適切性については、指導を受ける教員に尋ねる。

β 以降は上記と共通。

C図書館の活用

α 判例の検索

まずは、○○判例百選、昭和○○年度(平成○○年度)重要判例解説、注釈○○法、コンメンタール○○法などをざっと見てみる。次に、判例体系(第一法規)、新判例体系(新日本法規)、法律判例文献情報(第一法規)、判例年報(判例タイムズ社)、戦後判例批評文献総目録(判例時報社)、続判例批評文献総目録(同前)、法律時報(日本評論社)末尾の判例評釈欄、最高裁判所判例解説、判例時報(判例時報社)末尾の最高裁判所判例要旨、ジュリスト(有斐閣)の「最高裁判所新判例コーナー」、裁判所時報(最高裁判所事務総局)を見て、関連判例がないか探す。

とはいっても、これは本学(大阪産業大学)の場合手段が限られる。本学の総合図書館には有斐閣のジュリスト増刊『判例百選』は、憲法(若干古い)と環境法のものくらいしか入っていない。図書館のOPACで「判例」と入れて検索できる図書類を参考にして検索することになる。後述(3)Aを参照。

β 判例の絞り方

関連論文や体系書がかならず触れている判例にまず目を通す。

(2)報告とプレゼンテーション

○報告は、単に一人の著者の見解をそのままなぞるのではまったく不十分。

@ 少なくとも、有力な見解と、それに対する反対説について大きな枠組みで整理する。

A 私見は、有力説をとる場合は反対説に対し、反対説をとる場合には有力説に対し、簡潔に反駁を加えた上で述べなければならない。

B 憲法に限らず、法学において自説を主張する場合、具体的妥当性への配慮があるかどうかは、判例に対してどのような立場をとるか、判例自体の意義をどのように考えるかを明確にしなければ説得力を欠く。

○プレゼンテーション

結論を簡潔に示し、理由を箇条書きでA4一枚程度にまとめる練習をすること。(3)で見るパーソナルコンピューターの活用が重要。

パソコンを使うのであれば、集めた情報を集約し、思いついたメモなどを整理し、さらに構造的に自らの意見を整理するのにも、大いに役立つ。パソコンを道具として使えるよう、基本的な知識は身につけておかなければならない。

→ 情報処理能力

(3)パーソナルコンピューターの活用(インターネットの利用を含む)

A.インターネットの活用(一例)

@検索サイト

http://www.google.co.jp/

A判例情報の検索

判例タイムズ社 http://www.hanta.co.jp/main.htm

最高裁判所 http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/WebFrame?OpenFrameset

http://www.courts.go.jp/ からたどることができる)

など。

B条文

携帯型の六法に載っていないような条文をてっとり早く検索する方法

公式サイト

http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi

※民間のサイトは、情報が最新でないことが多いので、あくまで参考にとどめること。

海外法の情報が充実しているサイト

C学者のサイト(憲法学者のみ)

齊藤正彰先生(北星学園大学) http://www.ipc.hokusei.ac.jp/~z00199/

安念潤司先生(成蹊大学) http://uno.law.seikei.ac.jp/~annen/

水島朝穂先生(早稲田大学) http://www.asaho.com/

B.パソコンの活用

@データの収集→テキストエディタでとりあえずデータにする→エクセルなど表計算ソフトで一覧性をもったデータにする→ワードなどで思いついたことはどんどん構造化する

※いわゆる「オフィスソフト」は、別に高価なものを使う必要はない。OpenOffice.org(http://oooug.jp/start/)という無料のオフィスソフトも存在している。(佐藤は、講義のレジュメもたいていこのソフトで作成している。)

A辞書ソフト

ちょっとした調べものをするときに、百科事典的なものや安価な英和辞典ソフトを入れておくと、レジュメなどを思考の流れを切断せずにとりあえず作成することができる。

3.学習のための基礎知識―レポートについて

わたしは、すべての授業でレポートを課すし、確認のための小テストも結構頻繁におこなう。

そのさいにいつも気になることをここであげておくことにしよう。

その1 誤字が多い。授業中に短い時間制限で書く小テストの場合は、あせっているので、多少大目にみるが、2週間から3週間の猶予をもったレポート、しかもワープロで作成したものに、相当にひどい誤字があることがある。提出前に一度見直すだけで、かなり誤字は減らせるはず。

その2 文体がやわらかすぎる。「〜じゃないですか?」というのは、まあ質問などの際につい口をついて出るくらいならしょうがないであろう。けれどもレポートの文章にこのようないいまわしをつかってはいけない。

その3 ですます調で書いている。「〜だとおもいます」・・・これは「作文」であればギリギリゆるせるが、「レポート」は、自分の勉強成果の報告なのである。「である」調ではっきりと書くべし。

その4 まったく構成を考えずに書く。なにをどのような順序で書くべきか。これは、「自分より5つくらい年下の人間に自分が説明するために書く」つもりでわかりやすさを考えると上手くいくようだ。このあたりは若干難しい点もあるので、講義の中でも触れていくが、よくわからなければ質問に来ること。メールで問い合わせてもよい。

その5 インターネットで課題文に関連する用語などを検索し(このこと自体は別段問題ない)、参照したサイトの文などを語尾などをちょっと変えただけでそのままコピーする。これは「剽窃」である。つまりドロボウだ。参照したURLも参考図書名もまったく明記しないことが多い。また参照物がURLだけというレポートがあるが、インターネットにある文書は、政府文書ですらその場所が移動することがある。したがって、提出されたレポートにURLが示されたとしても見に行ったらもうなかった、などどいうことはよくある。ましてや見にいってみたらBlogだった、ということもある。Blogを見るのは一向にかまわないが、それはレポートの「根拠」にはならない。レポートの「参考文献、参考URL」は、自分が論旨を展開するための一定の根拠となるものをあげるべき。

4.最後に

メールで問い合わせる学生は、最近携帯電話のメールから行う場合もあるようだ。このばあい気をつけることは、メールの表題である。携帯電話は題名をなにも入れないでも送ることができるが、PCのメールソフトの場合、迷惑メールとしてフィルタリングされてしまい、届かないことがある。この点は気をつけないと、メールを送ったのに返事がぜんぜん来ない、ということになりかねないので、注意が必要だ。


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